時代の流れ――塗装屋編
昭和・平成・令和。塗装職人の仕事は、どう変わった?
※ここからは、あくまで一人の塗装職人として、長年この仕事をしてきた俺の個人的な感想です。
地域や会社、職人によって違うところもありますので、「へぇ、こんな見方もあるんや」くらいの気持ちで読んでもらえたらと思います。
俺がペンキ屋を始めたのは30歳。
そこから今まで、いろんな現場を経験してきました。
時代が平成、そして令和へ変わる中で、塗装の仕事も、材料も、道具も、職人を取り巻く環境も、かなり変わってきたと思います。
ここでは、俺が30歳からこの仕事をしてきた中で感じた、
「塗装屋は、時代とともにどう変わってきたんやろ?」
という話を、あくまで職人目線で書いてみようと思います。
俺がペンキ屋を始めた頃
俺が30歳でペンキ屋を始めた頃は、戸建ての外壁ではモルタル壁が主流でした。
戸建てなど比較的小さな仕事をする職人を、俺たちの周りでは「町屋」と呼んでいました。
今、改めて調べてみると、一般的には「町場(まちば)」という言葉も使われているようです。
呼び方は地域や職人によって違うのかもしれません。
俺が経験してきた町屋の仕事では、「塗るだけ」が仕事ではありませんでした。
足場を組む。
パテなどの下地処理をする。
吹き付けをする。
刷毛やローラーで塗る。
調色をする。
細かい塗装をする。
雨樋を架け替える。
ちょっとした左官工事をする。
現場を見て、次の工程を自分で判断する。
自分たちでできることは、何でもやる。
そんな感じでした。
もっと前の世代がどうだったのかは、俺自身が経験していないので分かりません。
だからここからは、あくまで俺が30歳から現場で見てきた塗装屋の時代の流れとして読んでもらえたらと思います。
昔にも「専門」はあった
昔から、塗装屋がみんな同じ仕事をしていたわけではありません。
戸建てなどの仕事をする「町屋」。
店舗などの仕事を専門にする「店舗屋」。
マンションやビルなど、大きな現場をする「野丁場(のちょうば)」。
そして、新築などで吹き付けを専門にする「吹き付け屋さん」。
それぞれ得意とする仕事がありました。
吹き付け屋さんは、今でもいます。
ただ、俺が30歳でペンキ屋を始めた頃の町屋の職人は、今より一人の職人が担当する仕事の範囲が広かったように思います。
「これは塗装屋の仕事」
「これは別の業者の仕事」
と細かく分けるというより、
自分たちでできることは、できるだけ自分たちでやる。
そんな現場が多かった。
それが、俺が経験してきた町屋のペンキ屋の仕事でした。
サイディングが増えて、仕事も変わった
時代が進むにつれて、戸建ての外壁も変わってきました。
モルタル壁が主流だった時代から、サイディングの住宅が増えてきました。
サイディングが増えると、当然、コーキングの重要性も高くなります。
俺がペンキ屋を始めた頃は、今ほどペンキ屋がコーキングを専門的にやるという感じではありませんでした。
コーキングはコーキング屋さんにお願いする。
そんな流れがありました。
そこからサイディングの住宅が増えていく中で、ペンキ屋も少しずつコーキングを覚えていった。
俺の感覚では、ここ10年くらいで特にその流れが強くなったように思います。
今では、塗装屋がコーキングまで施工する現場も珍しくありません。
建物が変われば、塗装屋の仕事も変わる。
これも時代の流れなんやと思います。
時代が変われば、仕事のやり方も変わる
平成、そして令和。
塗装の仕事も、かなり変わりました。
材料は良くなりました。
道具も良くなりました。
施工方法も効率化されました。
昔の戸建ての塗り替えではよく使っていた吹き付けも、今ではローラー施工が主流になっています。
ローラーそのものも、昔とは比べものにならないくらい良くなっています。
塗料の性能も上がり、レベリング性の良い材料も増えました。
昔は職人の技術でカバーしていた部分を、今は材料や道具が助けてくれる。
これは、ええことやと思います。
「今の職人は楽になった」とは思わない
ただ、
「昔より仕事が簡単になったから、今の職人は楽や」
という話ではありません。
道具や材料が良くなった分、今の職人には、
その道具や材料を正しく使うこと。
そして、
メーカーの仕様を守り、決められた工程をきちんと行うこと。
そういう部分が、より重要になっていると思います。
作業効率が上がったことで、昔より時間に余裕を持てる現場もあります。
その時間を、
下地を見る。
塗布量を確認する。
乾燥時間を守る。
養生を丁寧にする。
仕上がりを確認する。
そういうところに使えるなら、それは職人にとって大きなメリットです。
ただし、これも会社や工務店、親方、職人によって全然違います。
同じ材料、同じ道具を使っていても、余裕を持って仕事ができる現場もあれば、次から次へと現場を回らされる場合もあります。
「職人」の定義も変わったんちゃうかな
昔、俺が現場で見てきた職人は、
足場も組める。
吹き付けもできる。
調色もできる。
下地もできる。
細かい塗装もできる。
雨樋の架け替えもできる。
ちょっとした左官工事もできる。
そして、現場を見て判断できる。
いろんなことができて、ようやく「一人前」という感覚がありました。
今は、昔より仕事を専門的に分ける場面も増えました。
これは悪いことではありません。
専門性が高くなったことで、品質が上がった部分もあります。
だから俺は、
昔の職人が上、今の職人が下。
そんな単純な話ではないと思っています。
時代が変われば、職人に求められるものも変わる。
それだけのことやと思います。
じゃあ、職人の手間賃はどうなん?
ここは、あくまで俺が長年この仕事をしてきて感じている話です。
地域や会社によって違います。
俺の周りで聞く話や、これまでの経験からすると、
見習い・坊主
12,000円前後
一人前の職人
20,000円前後
応援・常用
18,000円前後
くらいの話をすることがあります。
もちろん、経験や仕事内容、地域、会社によって変わります。
面白いのは、一人前の職人の手間賃は、俺がこの仕事を長くやってきた中では、それほど大きく変わったという実感がないこと。
一方で、最近はまだ何もできない見習いでも、12,000~14,000円くらいを希望するケースがあると聞きます。
このあたりも、昔と今で変わってきたところなのかもしれません。
職人が気持ちよく仕事できる環境
これは俺がかなり大事やと思っているところです。
職人も人間です。
ちゃんと仕事をして、
「ここまでやったら、これだけの仕事をした」
と納得できる環境なら、自然と仕事にも気持ちが入ります。
逆に、
「ここはサービスでやっといて」
みたいなことばかり言われていたら、モチベーションが上がるわけがありません。
もちろん、サービスそのものが悪いわけではありません。
本当のサービスって、
自分から進んで「やってあげたい」と思って提供するもの。
「サービスさせられる」
とは、全然違うと思っています。
職人が気持ちよく仕事できる環境。
それが結果的に、施主さんにとっても良い仕事につながる。
俺はそう思っています。
昔と今、どっちがええ?
これも一概には言えません。
昔は昔で、職人として覚えることが多かった。
今は今で、材料も道具も施工方法も進化しています。
昔の職人が持っていた技術。
今の職人が持っている知識。
そして、今の材料や道具。
それらをうまく組み合わせれば、昔よりもっと良い仕事ができる可能性はあると思います。
結局のところ、
時代が変わっても、「ちゃんと仕事をする」という部分は変わらない。
ここだけは、昔も今も同じやと思います。
最後に
これは業界全体を代表して言っている話ではありません。
あくまで、
長年、現場で仕事をしてきた一人の塗装屋の戯言です。
地域によっても違う。
会社によっても違う。
職人によっても違う。
だから、
「へぇ、昔の塗装屋ってこんなんやったんや」
「今とはこんなに違うんやな」
くらいの気持ちで読んでもらえたら十分です。
時代は変わります。
材料も変わる。
道具も変わる。
仕事のやり方も変わる。
でも、
最後に現場で刷毛を持つのは、人間です。
その人間が、気持ちよく、誇りを持って、ちゃんと仕事ができる。
俺は、それが一番大事やと思っています。
俺も30歳からこの仕事を始めて、いろんな現場を経験してきました。
気がつけば、もうええ歳です(笑)。
それでも、まだ現場に出たい。
できれば、あと10年は現場に出ていたい。
その頃には、塗料も道具も、また今とは全然違うものになってるんやろな。
その時、自分がどんな仕事をして、どんなことを感じているのか。
それもちょっと楽しみです。
まあ、これも一人の塗装屋の戯言ですけどね。 





